日本一スケールがでかい私道「宇部興産専用道路」と「特殊車両」

ハマろう

日本一スケールがでかい私道「宇部興産専用道路」と「特殊車両」

2020年9月にトミカから「宇部興産 ダブルストレーラー」が発売されます。山口県民ではなくこの記事をキャッチした方は、何かしらの車両マニア、工場マニアあるいは雑学通と言えるでしょう。

「宇部興産」とは、山口県宇部市に本社を持つ「宇部興産株式会社」が正式名称の化学、医薬、建設資材、機械、エネルギー・環境の各分野で活躍する国内有数の大手総合化学メーカーです。

この宇部興産が建設した「宇部興産専用道路」と、そこを走る今回トミカ化されたダブルストレーラーなどの「特殊車両」が、かねてより一部のマニアの間では「スケールがでかすぎる」点で有名でした。

いったいどのあたりがスケールがでかいのか、(実は)地元民の管理人・柴子が解説していきましょう。

一企業が日本一長い私道を作った

宇部興産は市ををまたぐ工場から工場への資材の輸送ラインとして「私道」を作ってしまったのです。その長さは31.94Kmと日本一長い私道として知られています。なんともスケールの大きなお話ですよね。1968年から14年かけて建設されたとのことですので、知られざる一大プロジェクトです。

もともと物資の輸送(主に石灰石など)には鉄道を使っていたようですが、昭和30年代に需要が増えたことに伴い輸送能力の向上を模索し、「鉄道よりもコストが安いこと」「多目的に使用できること」などの理由から道路建設を決定したそうです。さらに、宇部興産専用道路にはトンネルや「興産大橋」とよばれる全長1,020mの立派な橋まで存在します。

よし、ウチ専用の道路と橋、つくっちゃおう!となったわけですね。その発想から、スケールがでかすぎます。

長くても「私道」のため道路交通法が適用されない

宇部興産専用道路は全長31.94Kmと、その距離、同会社が存在する山口県のおおよそ縦半分。一企業の管理物としては化け物級ですね。ちなみに、見た目は何の変哲もない「4車線の高速道路」です。通行量は年間のべ55万台に達し、年間の道路維持管理費は1.5億円以上になるとのこと。

それだけのスケールを誇るにもかかわらず、私道ゆえに道路交通法が適用されないのも特徴です。なので、道路運送車両法で義務付けられたナンバープレートを付けていない車が走ってたりするんですね。

一方で一般車両の進入は厳しく監視され、許可された車両しか走ることができません。

ドライバーは独自のライセンスが必要

道路交通法が適用されないので法的には無免許で運転できるのですが、実際には宇部興産が定める独自の社内規則が設定されています。

  • ドライバーは大型と牽引免許保持者で、社内講習と1~2ヶ月間の指導運転手同乗訓練を受講しライセンスを取得しなければ走行できない
  • 70km/hの制限速度をはじめとする交通ルールが細部まで厳格に定められている
  • パトロール業務の担当者が常時、取り締まりを行っている
  • スピード違反には通行証没収といったペナルティーが設けられている

見た目は高速道路ですが、工場内の生産ラインの一部のような認識でいいようです。事故が起きれば何千トンというセメントの生産が止まるなどのリスクもあるため、未然防止には神経を使っているようですね。

日本の公道では走れない、いろいろ規格外にでかいトレーラーが走行

今回新発売されたトミカは「ダブルストレーラー」という名称です。

1台のトラクターがトレーラー2台をけん引する3両編成で、全高約3.6m、全長約34mという規格外のスケール。一度に最大88tもの石灰石などを輸送できます。

日本では、道路交通法や道路法によって定められている大きさ(全長21m以下)を超えるので、これらダブルストレーラー等特殊な大型車両は一般の公道を走行することができませんが、宇部興産専用道路は一般の工場構内道路などと同じ私道であるため走行することができます。

つまり、日本でダブルストレーラーを公道近くで見かけることができるのは、山口県のここ宇部興産専用道路だけ!これほど迫力あるトレーラーが朝6時半から夜9時まで、365日年中無休で走っているのです。

ただ大きいだけではありません。その品質も化け物級です。

  • 往復75Kmを1日10往復できる耐久性
  • 100tを超える巨体を最大斜度6度を持つ興産大橋の登り坂からゼロ発進させるパワー
  • 80t以上の積載状態で70km/hという速度で走行できる
  • 8年間以上の運用、総走行距離150万Km

まさに「働く車」ですね。ニッチな世界でなぜ注目されているかがお分かりいただけたでしょうか。

鉄道が通らない日本唯一の踏切が存在する珍百景

ダブルストレーラーは急停止などができないことから、専用道路では最優先とされています。宇部興産近くの一般道と水平交差する地点にある踏切は、電車ではなくこのダブルストレーラーが通過します。日本で唯一鉄道が通らない踏切として知られています。

宇部新川駅の駅前からまっすぐに延びる大通りを南下し、最初の交差点を渡ると目的の踏切です。ご興味のある方はぜひ足を運んでみてください。

ちなみに、この踏切は過去、TV番組「ナニコレ珍百景」「ダウトをさがせR」などでも取り上げられました。

沿道の風景もケタ違い

これら宇部興産道路のスケールの大きさは、ぜひ宇部興産のHPにある動画をご覧いただくといいでしょう。空から撮影された宇部興産道路の雄大さや、石灰山の爆破シーンと巨大車両の壮大さ、カッコよさ。重機とのコラボや新幹線との交差シーンがなど、なかなかシビれる構成になっています。

また工場夜景マニアとしては、「夜の伊佐セメント工場」がおススメです。中国自動車道の美祢ICで降りて西側へ5分ほど車で走ると、「ファイナルファンタジー」の世界観を放つ工場群が突然視界に現れ、毎回新鮮な気持ちで感動してしまいます。

一般公開ツアーもやっています

宇部興産株式会社のHPから一般の方向けに「大人の社会見学」ツアーを申し込めます。宇部・美祢・山陽小野田産業観光推進協議会が監修する産業観光ツアーコースの一部のようで、バスで専用道路を走行し工場も見学もできるようです。私も機会を設けて一度参加してみたいですね。

緊急時は救急車が通行できる

宇部、伊佐にある出入り口のほか、途中の数か所にゲートを設置しており、緊急時には緊急車両なども進入できます。また、緊急車両を要請した際は宇部興産の社員が誘導するようになっているそうです。

実は当ブログ管理人・柴子の母は伊佐セメント工場のある美祢市で働く看護師なのですが、病院間の緊急搬送で患者さんに付添した際に、救急車でこの宇部興産専用道路を通ったそうです。信号のない直線距離31.94Kmは30分で走行できますからね。医療現場にとってはありがたい心遣いです。

ちなみに、搬送先は宇部興産が経営する「宇部興産中央病院」。病院の設立もさることながら、会社の私道を緊急時に一般の人にも開放するあたり、地域貢献への意識の高さがうかがえます。

映画撮影や自転車競技の大会に解放

1994年に開催された広島アジア競技大会では、この道路を使用して自転車のロードレース競技が行われたそうです。また、映画『釣りバカ日誌12 史上最大の有給休暇』でも主人公たちが興産道路を走行するシーンが話題になったようですね。

まとめ

自社の発展のために規格外のことをやってのけた宇部興産。その発想にも驚きますが、このインフラを一般にも開放している辺りが、地域に長く愛されている所以なのでしょうね。

ちなみに、2020年9月に発売される「トミカ 宇部興産 ダブルストレーラー」ですが、初期生産分のロットはもう予約だけで完売状態だとのこと。隠れた人気の高さがうかがえます。

私は山口県美祢市出身ですが、小さいころから宇部興産道路を見慣れており、近すぎてむしろ何の認識すら持っていませんでした。車を自分で運転するようになって、「あれ?そう言えばあの道路って地図にも載ってないし、車でも走れないし。おやおや?」程度の不思議さでした。あるとき県外の知人がわざわざ見に行きたいと言ったときに初めてその特殊性を意識しました。

息子がトミカにハマって働く車両にちょっと興味を持ち始めた今だからこそ、宇部興産道路と特殊車両のすごさがわかるようになりました。ワクワクって意外と身近にあるものなんですね^^

以上、今日もここまで読んでいただきありがとうございます★

コメント